本人の潔癖が関係していることもあるし、仕方のないこと
四〇過ぎてまで結婚出来ず女性経験がない男性も諦めてはならない
それで立花が土居に「男が四〇過ぎまで童貞なんてことがほんとにあるんでしょうか」と訊いたら、土居が憤然として「そりゃありますよ」と断固として答えたので、立花は、もしかしたら土居先生にも似たようなことがあったのかな、と思った、という(東大講義「人間の現在」(第五回)『新潮』一九九七年十月)。私だって、「そりゃありますよ」と言いたい。ただ、十九世紀のフランスでも現代の日本でも売春というのはあるわけだから、何が何でもセックスしたい、と思えばよほどのことがない限りできる。
だから、四十すぎまで童貞、というのは、本人の潔癖が関係していることが多いだろう。じじつ、アミエルは恋愛に高い理想を抱く人だった。その『日記』を読むと、彼が、「真実の恋愛」の相手でなければ結婚するに値しない、と強く考えていたことがわかる。私は中心になる深い恋を欲した。それを私は今でも信じている。もし私が間違っているなら、女性の体面にとってお気の毒な訳だ。
ぱっと輝いて燃し尽す、若しくはひからびさせる藁のような感情は御免だ。偉大な神聖な重々しい真剣な恋、精神のあらゆる筋あらゆる力によって生きている恋を、私は呼んでいる、待っている、今も望んでいる。それがわからない女は私にふさわしくない。いつまでも独りでいなければならないとしても、自分の精神を不釣合なものと一緒にするよりは、希望と夢を抱いて去る方がましだ。(一八五二年十一月六日、河野与一訳、新漢字、新かなに直した)これは三十一歳の時の文章だ。ついで翌一八五三年七月二十九日の項には、「今夜は一つ経験をした。
なかなか出会いがなくて恋愛もしばらくしていませんでしたが結婚相談所 東京でいい相手を見つけることができました。恋愛どころか結婚することになってとても幸せです。夢を見ているようです。
ともかく品切れだから、古本屋か図書館で探すか、岩波が復刊してくれるのを待つかである。著者が童貞を失うのは第一巻。なお、『童貞』という題の小説は、私の知るかぎり富士正晴のものと酒見賢[のものと二編あるが、あまり題名と内容は関連なし。オナニーが異性愛?一九九七年暮れ、映画監督の伊丹十三が自殺した。伊丹は、映画監督としてのデビューは遅く、それまでは俳優だったりエッセイストだったりしたが、一九八〇年代の始め、『モノンクル』という雑誌を編集していた(伊丹の自殺については、柳美里『仮面の国』の中の考察が面白い)。
『アンアン』のような体裁で朝日出版社から出ていたが、当時『ものぐさ精神分析』で有名になりつつあった岸田秀と伊丹を中心に、ようやく文名が高まりつつあった蓮實重彦や、当時売り出し中の四方田犬彦、文化人類学者の山口昌男、『幻想としての経済』で有名になった栗本慎一郎、イラストとエソセイの南伸坊、晩年の寺山修司などの華麗な顔ぶれをそろえて、精神分析や記号論をやや軽いノリで紹介したり、佐川一政事件を扱ったり、座談会などを中心に編集されていて、当時十代後半だった私は愛読していた。
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